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福岡高等裁判所 昭和29年(ネ)406号 判決

控訴人

(原告) 溝江軍治郎

被控訴人

(被告) 福岡県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決はこれを取消す。被控訴人が飯塚市立岩千八百八十六番地所在家屋番号立岩第一七番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪五十六坪二合五勺外二階三十三坪に対し昭和二十六年十一月十九日なした差押処分及び同二十七年五月二十七日なした公売処分はいずれも無效であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、本訴請求中予備的に被控訴人が本件家屋に対し昭和二十六年十一月十九日なした差押処分及び同二十七年五月二十七日なした公売処分の取消を求める部分は撤回する旨述べた外原判決当該摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、後記理由を附加する外、原判決の説示するところと同一の理由により、控訴人の本訴請求は理由がないものと認めるので右理由の記載(但し原判決書第六枚目裏三行に「及び予備的に右各処分の取消」とある部分を削除する。)を引用する。

前顕甲第一号証、原審証人下川義美の証言により各成立を認め得る甲第七、八号証の各一、二原審証人高野満の証言により成立を認め得る乙第五号証に、原審証人溝江スヱ子、小林謙三、長西藤市、高野満、井口米造の各証言を綜合すれば、控訴人の妻溝江スヱ子は、本件家屋に対する公売実施の前日頃に、本件家屋の売渡証書(甲第一号証)、本件家屋の借家人綱分百次郎に対する賃貸契約消滅の通知書(甲第七号証の一)、訴外長西藤市作成名義の本件家屋を控訴人に売渡した旨の証明書(甲第七号証の二)及び飯塚税務署長宛家屋名義人訂正願(甲第八号証の二)等の書面を飯塚財務事務所徴収課長高野満、同財務事務所長井口米造に提示して、本件家屋は控訴人が先に訴外長西藤市からこれを買受け所有権を取得したものであることを告げ、該家屋に対する公売の中止方を要請したけれども、右財務事務所長及び徴収課長等は、溝江スヱ子の提示した前記書面を検討した結果、それがいずれも私署証書に過ぎないところから、該書面によつては未だ本件家屋が控訴人の所有に属することを確認し得ず、むしろ家屋台帳の所有名義が訴外長西藤市となつており、しかも同訴外人は本件家屋に対する公売開始決定の通知を受けながら何等異議の申出をなさないし殊に控訴人は本件家屋を買受けたと主張するけれども当時から既に数年間を経て未だこれが所有権取得登記をなしていないこと等に照し、該家屋の所有権は訴外長西藤市に属するものと認めてこれが公売処分をなすに至つたものであることを窺い知るに十分であつて、これと抵觸する原審証人岩本虎雄、下川義美の各証言は前記各証拠と対照して措信し難く、他にこれを動かすべき証拠は存しない。

してみれば、本件滞納処分において当該徴税吏員は、控訴人が国税徴収法第十四条の規定(地方税の滞納処分についても地方税の法規定上国税徴収法の例による。)にもとずき差押財産たる本件家屋につき自己の所有権を主張し、これが取戻を請求するのに対し各資料により相当の調査を遂げた上、控訴人が該家屋の所有権の取得につき第三者対抗要件を具えているか否かの問題に触れるまでもなく、既に実質上においてもこれが所有者たることを確認し得ないものとして、その権限に属する裁量により本件公売を実施したものというべきである。そうだとすれば本件差押及び公売処分は国税徴収法第十四条の規定の関係からいつても権限ある機関によつて法規にもとずき適法になされたもので、該処分自体にはこれを無效とすべき手続上の瑕疵は何等存しないものといわざるを得ない。よつて控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないので、これを棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野田三夫 中村平四郎 天野清治)

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